About Pyriteパイライトとはどんな宝石か

パイライト(黄鉄鉱)は、硫化鉄(FeS₂)を主成分とする鉱物で、金属的な淡い金色の光沢が特徴です。その名前はギリシャ語の「pyr(火)」に由来し、鉄器を打ちつけると火花を散らすことから名付けられました。立方体や五角十二面体の美しい結晶形で産出され、自然が生んだ幾何学的な美しさは多くのコレクターを魅了しています。モース硬度は6〜6.5で比較的硬く、主な産地はスペイン、ペルー、イタリア、アメリカ合衆国などです。特にスペインのリオ・ティント地方やペルーのワンカベリカは、古代から大規模なパイライト採掘で知られてきました。結晶の形状は産地によって異なり、スペイン産は見事な立方体、ペルー産は独特の五角十二面体で人気があります。

しかし、パイライトが歴史に名を残す最大の理由は、その美しさではなく——金(ゴールド)に酷似した外見で無数の人間を騙してきたという、欺瞞の歴史にあります。パイライトには「繁栄」「金運」「意志の力」「防護」といったポジティブな石言葉がある一方で、「偽りの富」「愚者の金」「悪魔の火」「欺瞞」「破滅の輝き」という極めてネガティブな石言葉が存在します。英語圏ではFool's Gold(愚者の金)の異名で広く知られ、この名前自体が「騙された愚か者の象徴」として使われています。金色に輝きながら金ではない——パイライトは、見かけの豊かさと内実の空虚さ、欲望と幻滅を一身に背負った鉱物なのです。

さらに、パイライトは鉄と硫黄の化合物であるという化学的性質から、中世ヨーロッパでは悪魔や地獄と結びつけられました。火打ち石として火を起こし、加熱すると硫黄の臭い——地獄の硫黄(ブリムストーン)の臭い——を放つ。金に見えて金ではなく、火と硫黄を宿す石。パイライトは「欺瞞」と「悪魔」という二重の恐怖を内包する、宝石言葉の世界でも屈指の「怖い石」なのです。鉱物学的に興味深いのは、パイライトが実際に微量の金を含有することがあるという点です。金鉱床の近くで産出されるパイライトには、結晶構造の中に金原子が取り込まれていることがあり、これが「パイライトには金が含まれている」という鉱夫たちの誤解をさらに強固なものにしてきました。皮肉なことに、パイライトは「偽の金」でありながら「金の痕跡」を宿しているのです。

基本データ:硫化鉄(FeS₂)/モース硬度 6-6.5 / 黄鉄鉱 / 主な産地:スペイン、ペルー、イタリア、アメリカ / 別名:Fool's Gold(愚者の金)/ 立方体・五角十二面体結晶 / 火打ち石の歴史 / 比重4.9-5.2(金の約1/4)

Gem Languageパイライトの石言葉一覧——偽りの富

パイライトには「繁栄」「金運」「意志の力」「防護」といったポジティブな石言葉がある一方で、「偽りの富」「愚者の金」「悪魔の火」「欺瞞」「破滅の輝き」というネガティブな石言葉が存在します。金色に輝く見た目とは裏腹に、パイライトの石言葉は「偽り」と「破滅」の暗い影を纏っています。注目すべきは、ポジティブな石言葉の数よりもネガティブな石言葉の数のほうが多いという点であり、これはパイライトという鉱物の本質が「欺瞞」にあることを如実に物語っています。

石言葉分類解説
繁栄ポジティブ富と繁栄を引き寄せるとされる。しかしその富は「偽り」かもしれない
金運ポジティブ金運を高める石。愚者の金が招く金運の正体とは
意志の力ポジティブ強い意志をもたらす。意志が欲望や執着に変わる危険も
偽りの富ネガティブ金に見えて金ではない。手にした富は幻影に過ぎない
愚者の金ネガティブ騙された者の象徴。欲に目が眩んだ者を嘲笑う
悪魔の火ネガティブ火と硫黄を宿す石。地獄の炎と悪魔の契約を暗示する
欺瞞ネガティブ見せかけの輝き。真実を隠し、偽りで人を惑わす力
破滅の輝きネガティブ美しく輝くが、その光に導かれた者は破滅する

「繁栄」と「偽りの富」、「金運」と「愚者の金」——パイライトの石言葉は完全に表裏一体です。金色の輝きが富を約束すると見えるが、その実態は偽物。パイライトの石言葉は、欲望に目が眩んだ人間への警告として機能しています。パワーストーンの世界でパイライトが「金運の石」として推奨されることがありますが、その金運とは本物の豊かさなのか、それとも「愚者の金」が見せる幻影なのか——パイライトを手にする者は常にこの問いと向き合うことになります。この石が「怖い」と言われる本質的な理由がここにあります。

Why It's Scaryパイライトが「怖い」と言われる理由

「愚者の金」——欲望が生む幻影

パイライトが怖いとされる最大の理由は、Fool's Gold(愚者の金)という悪名にあります。パイライトは金に非常に似た金属光沢を持ち、経験の浅い鉱夫や探検家が金と見間違えることが歴史上無数に繰り返されてきました。地下深くで苦労して掘り出した鉱石が実は無価値だった——その絶望と屈辱は計り知れません。鉱物学的にパイライトと金を見分ける方法はいくつかあります。金は軟らかく(モース硬度2.5-3)爪でも傷がつくが、パイライトは硬い(モース硬度6-6.5)。金は条痕色が金色だが、パイライトは黒褐色。金は比重19.3と極めて重いが、パイライトは5.0前後。しかし、これらの知識を持たない一般人にとって、キラキラと金色に輝くパイライトと本物の金を見分けることは容易ではありません。

人間の「金が欲しい」という欲望が、パイライトを金に「見せてしまう」のです。つまり、パイライトが人を騙すのではなく、人間の欲望がパイライトを金に変える——これこそが「愚者の金」の本当の恐ろしさです。心理学でいう「確証バイアス」——自分が信じたいことを支持する情報だけを集めてしまう傾向——が、パイライトを金に変えます。「金であってほしい」という願望が、冷静な判断を奪い、明らかな違いさえも見えなくしてしまうのです。

パワーストーンの文脈では、パイライトを身に着けると「偽りの富」のエネルギーが働き、見せかけの成功や虚栄心を増幅させるとされています。一時的に金運が上がったように感じても、それは砂上の楼閣であり、やがて崩れ去る。パイライトの金色の輝きは、持ち主の欲望を映す鏡として機能し、欲望が大きいほど輝いて見える——しかしその輝きの正体は幻影に過ぎず、目覚めたときには全てを失っている。ゴールドラッシュで山を掘り尽くした鉱夫たちのように、パイライトに魅入られた者は、幻の金を追い続けて破滅するとされています。

現代でも「Fool's Gold」という言葉は、見かけだけで中身のないもの、偽りの価値を持つものの代名詞として英語圏で広く使われています。投資詐欺や虚業を「Fool's Gold」と呼び、外見の華やかさに騙されることへの警告として機能しています。パイライトは単なる鉱物ではなく、人間の欲望と愚かさの象徴として文化に深く根を下ろしているのです。「見た目の美しさに騙されるな」「輝くもの全てが金ではない(All that glitters is not gold)」——シェイクスピアのこの有名な一節も、パイライトの本質を言い当てています。

火と硫黄——悪魔の石

パイライトの名はギリシャ語の「pyr(火)」に由来し、鉄片やフリントを打ちつけると火花を散らすことから、古代より火打ち石として使われてきました。先史時代の遺跡からもパイライトの火打ち石が出土しており、人類が火を自在に操るようになった歴史において、パイライトは重要な役割を果たしてきたのです。しかし、この「火を生む石」という性質は、中世キリスト教世界では悪魔的なものと見なされることがありました。

パイライトは硫化鉄であり、加熱すると二酸化硫黄(SO₂)——硫黄の刺激臭——を放ちます。キリスト教において硫黄は「ブリムストーン(地獄の硫黄)」として知られ、地獄の火と罰の象徴です。聖書の「ソドムとゴモラ」(創世記19章24-25節)では、神が天から硫黄と火の雨を降らせて罪深い都市を滅ぼしました。ヨハネの黙示録でも、最後の審判において罪人は「火と硫黄の池」に投げ込まれるとされています。つまり、火と硫黄は聖書において神の裁きと永遠の罰を象徴するものであり、パイライトはその両方を内に秘めた石なのです。

火を起こし、硫黄の臭いを放ち、金に見せかけて人を騙す——これらの特徴が重なり、中世ヨーロッパではパイライトは「悪魔の石」と呼ばれることがありました。悪魔が人間を堕落させるために地中に埋めた偽の金、あるいは悪魔との契約で手に入れた富は、実はパイライトのように無価値だったという寓話も語り継がれています。ドイツの民間伝承には、悪魔がある農夫に金貨の入った袋を渡すが、翌朝見ると中身はパイライトの塊に変わっていた——という話があり、パイライトは「悪魔の欺瞞の道具」として認識されていたことがわかります。

また、錬金術師たちはパイライトを「金になりそこねた石」として研究対象としました。卑金属を金に変えるという錬金術の夢において、パイライトは「あと一歩で金になれなかった存在」——自然の失敗作、あるいは悪魔の嘲笑として解釈されました。この「惜しい偽物」としての性質が、パイライトの不吉さをさらに際立たせています。錬金術師パラケルススは、パイライトに含まれる硫黄を「万物の三原質」のひとつとして重視しましたが、同時に硫黄は「燃える原質」であり、制御を誤れば破壊をもたらすものとして警告しています。

酸性鉱山排水——環境を破壊する石

パイライトの恐ろしさは、スピリチュアルな領域だけにとどまりません。科学的に証明された環境破壊の原因としても、パイライトは「怖い石」なのです。パイライト(FeS₂)が空気中の酸素と水に触れると、化学反応により硫酸(H₂SO₄)が生成されます。この反応は以下のように進行します:まずパイライトが酸化されて硫酸第一鉄と硫酸が生じ、次に硫酸第一鉄がさらに酸化されて硫酸第二鉄になります。この硫酸第二鉄がさらにパイライトを酸化し、反応が加速的に連鎖していくのです。

この現象は酸性鉱山排水(Acid Mine Drainage, AMD)と呼ばれ、世界中の鉱山地帯で深刻な環境問題を引き起こしています。酸性鉱山排水は河川や地下水を強酸性(pH 2-3程度)に変え、魚類や水生生物を壊滅させ、飲料水を汚染し、周辺の植生を枯死させます。さらに、酸性水は岩石中の重金属(鉛、カドミウム、ヒ素など)を溶かし出すため、重金属汚染も同時に引き起こします。

アメリカ合衆国だけでも、酸性鉱山排水に汚染された河川は推定20,000km以上に及ぶとされています。アパラチア山脈の石炭鉱山地帯、コロラド州の金鉱山跡地、モンタナ州のバークレー・ピットなど、アメリカ各地にパイライトの酸化による環境破壊の傷跡が残っています。バークレー・ピットは、巨大な露天掘り銅鉱山の跡地に溜まった酸性水が深さ270m以上の「毒の湖」と化しており、1995年には渡り鳥の群れがこの湖に着水して342羽が死亡するという事件も起きました。

パイライトは地下に眠っている限りは安定していますが、採掘によって地表に晒されると酸化が始まり、何十年、何百年にもわたって硫酸を放出し続けます。一度始まった酸性鉱山排水を止めることは極めて困難で、環境修復には莫大なコストと時間がかかります。つまりパイライトは、人間が欲望に駆られて地下から掘り出した結果、環境を破壊し続ける石なのです。金を求めて掘った鉱山からパイライトが露出し、硫酸を生み出し、川を死の川に変える——「愚者の金」は採掘者を騙すだけでなく、その土地そのものを呪うかのように蝕んでいきます。この環境破壊の側面は、パイライトが「怖い」と言われる科学的な根拠であり、「偽りの富」の代償を目に見える形で示しています。

Legendsパイライトにまつわる迷信

魔女の火打ち石——火を操る石

中世ヨーロッパでは、パイライトは魔女が火を操るために使う石として恐れられました。魔女裁判の記録には、被告の家からパイライトが発見されたことが「魔術の証拠」として提出された事例が残っています。パイライトで火花を起こす行為は、一般人にとっては単なる着火手段でしたが、魔女狩りの時代には「悪魔の力で火を呼ぶ術」と解釈されることがありました。パイライトを持っているだけで魔女の嫌疑をかけられ、拷問や処刑に至ったケースも報告されています。特に15〜17世紀のドイツ、フランス、イングランドにおいて、パイライトは「魔女の道具」として教会当局から警戒されていました。

パイライトを火打ち石として使うと硫黄の臭いがすることから、「悪魔を呼び出す儀式に使われる」「この石から出る火は地獄の炎である」という迷信が広まりました。特にドイツやイギリスの農村部では、パイライトを家に持ち込むと火事が起きる、あるいは悪霊が寄りつくという言い伝えがあり、パイライトの結晶を見つけた者は川に投げ捨てるか、教会に持っていくべきとされていました。フランスのある地方では、パイライトの立方体結晶は「悪魔のサイコロ」と呼ばれ、それを拾った者には不運が訪れると信じられていました。火を生み、硫黄を放つパイライトは、人間にとって便利な道具であると同時に、呪われた存在でもあったのです。

興味深いことに、同じ中世ヨーロッパでも一部の地域ではパイライトは逆に魔除けの石として用いられていました。「悪魔の石」をあえて身に着けることで、悪魔自身を遠ざけるという逆説的な発想です。これは「毒を以て毒を制す」という発想に近く、パイライトの火と硫黄のエネルギーが悪魔を恐れさせるという解釈に基づいています。善にも悪にも解釈される——この両義性こそが、パイライトをめぐる迷信の核心にあります。

インカの占いの鏡——魂を映す黒い鏡

南米のインカ文明では、パイライトを磨いて鏡として使用していました。パイライトの金属光沢を利用した鏡は、太陽の光を反射し、宗教的な儀式や占いに用いられたとされています。メソアメリカのアステカ文明でも同様にパイライトの鏡が使われており、テオティワカンの遺跡からはパイライト製の鏡の破片が多数出土しています。しかし、この鏡には「見てはいけないものが映る」という言い伝えがありました。パイライトの鏡を覗き込むと、自分の未来の死に様が見える、あるいは悪霊の姿が映るという伝承です。

特に興味深いのは、インカの神官たちがパイライトの鏡を使って「嘘つきを見破る」儀式を行っていたという記録です。嘘をついている者がパイライトの鏡を覗くと、鏡に映る自分の顔が歪んで見える——というのです。パイライトが「欺瞞」の石言葉を持つことと、嘘を見破る鏡として使われていたことは、奇妙な対応関係にあります。欺瞞の石が欺瞞を暴く——パイライトは嘘の本質を知る石であるがゆえに、嘘つきを見破れるのだという解釈です。

しかし同時に、その鏡を長時間覗き込んだ者は正気を失うとも言われており、パイライトの鏡は真実と狂気の境界に位置する道具として恐れられていました。真実を知りたいという欲望が、やがて狂気に変わる——これもまたパイライトが体現する「欲望の代償」の変奏であり、金を求める欲望が破滅を招くのと同じ構造が、ここでも繰り返されています。パイライトの鏡は現在でも博物館に収蔵されていますが、その鏡面に映る自分の姿は、ガラスの鏡とは異なる独特の歪みを帯びており、見る者に不思議な不安感を覚えさせます。

Dark Historyパイライトの怖いエピソード

マルティン・フロビッシャーの悲劇(1578年)

パイライトが歴史に残した最大の悲劇のひとつが、イギリスの探検家マルティン・フロビッシャーの物語です。1576年、フロビッシャーは北西航路の探索のためにカナダ北部のバフィン島に到達しました。そこで彼は黒い岩に含まれる金色に光る鉱物を発見し、これを金鉱石だと確信しました。ロンドンに持ち帰った試料を一部の精錬師が「金を含む」と鑑定した(後にこの鑑定は誤りだったと判明)ことで、フロビッシャーは金鉱発見の英雄となりました。エリザベス女王をはじめとする王宮貴族や富裕な商人たちが出資に殺到し、「カタイ会社(Company of Cathay)」が設立されました。

1577年と1578年、フロビッシャーはさらに大規模な遠征隊を組織しました。第三次遠征では15隻もの船団が編成され、最終的に約1,350トンもの鉱石をイギリスに持ち帰りました。この遠征にはエリザベス女王自身も出資しており、国家的な事業として期待が寄せられていました。北極圏に近い極寒の地で、船員たちは命がけで鉱石を掘り出し、運び出したのです。遠征中にはイヌイットとの衝突や船の難破もあり、複数の犠牲者が出ました。

しかし、ロンドンで本格的な精錬が行われた結果、鉱石に含まれていたのは金ではなくパイライト——愚者の金——だったのです。莫大な資金を投じた遠征は完全な失敗に終わり、持ち帰った1,350トンの鉱石は道路の舗装材や建築材として捨てられました。カタイ会社は破産し、出資者たちは投資を失い、フロビッシャーの名声は地に落ちました。この事件はイギリス探検史における最大の恥辱のひとつとして語り継がれることになりました。「愚者の金」という言葉の持つ残酷さを、これほど明確に示すエピソードは他にありません。国家を挙げて追い求めた金の夢が、実はパイライトに過ぎなかった——この悲劇は、人間の欲望がいかに判断を歪めるかを象徴しています。

スペインの硫黄鉱山と奴隷労働

スペイン南部のリオ・ティント鉱山は、世界最古級の鉱山のひとつであり、パイライトの大規模採掘が行われた場所として知られています。この鉱山の歴史は5,000年以上前に遡り、タルテッソスやフェニキア人の時代から銅や銀の精錬が行われてきました。特にローマ帝国時代には大量の奴隷労働によってパイライトや銅鉱石が採掘されました。古代ローマの博物学者プリニウスは、リオ・ティントの鉱山について記述しており、そこでの過酷な労働条件を伝えています。

古代ローマの記録によれば、リオ・ティントの鉱山では数千人の奴隷が地下坑道で働かされ、硫黄のガス(二酸化硫黄)を吸い続けたことで肺を侵され、多くが数年以内に命を落としたとされています。パイライトを焼いて硫黄や銅を抽出する過程で発生する二酸化硫黄は、高濃度では致死性のある有毒ガスです。換気設備のない古代の坑道では、鉱夫たちは文字通り「地獄の硫黄」の中で働いていたのです。考古学的な発掘調査では、鉱山跡の坑道から奴隷のものと思われる骨が多数発見されており、その肺組織(保存状態が良い場合)からは高濃度の硫黄化合物が検出されています。

リオ・ティント川は鉱山排水によって真っ赤に染まり、魚も植物も生きられない「死の川」と化しました。この川の名前「リオ・ティント(赤い川)」自体が、パイライトの酸性鉱山排水によって赤く染まった水の色に由来しています。現在でもリオ・ティント川のpHは約2(レモン汁並みの酸性度)であり、5,000年以上にわたる採掘の影響が今なお続いています。NASAはこの極端な酸性環境を火星の環境に類似した場所として研究しており、地球上で最も過酷な環境のひとつとされています。

19世紀以降もリオ・ティントでの採掘は続き、1888年には鉱石の野焼き(テルレラス)から発生した有毒ガスに対する住民の抗議デモに対して軍が発砲し、多数の死者が出る「リオ・ティントの虐殺」事件が起きました。パイライトを含む鉱石を屋外で山積みにして焼く「テルレラス」という精錬法は、大量の二酸化硫黄を大気中に放出し、周辺の農作物を枯らし、住民の健康を蝕みました。パイライトの採掘は、古代から近代に至るまで人命と環境を犠牲にし続けてきたのです。

ゴールドラッシュの狂気

1848年に始まったカリフォルニア・ゴールドラッシュでは、約30万人もの人々が金を求めて西へ殺到しました。しかし、多くの鉱夫たちが金と信じて採取したものはパイライトでした。金との見分け方(金は軟らかく延性があるが、パイライトは硬く脆い。金は条痕が金色だが、パイライトの条痕は黒褐色)を知らない素人が大半だったため、「金を見つけた」という興奮が絶望に変わる瞬間が日常的に繰り返されました。当時の鉱夫たちの間では、パイライトに騙されることを「fools' goldを掴む」と表現し、それは最大の屈辱のひとつとされていました。

特に悲惨だったのは、全財産を投じて西部に移住し、何ヶ月も過酷な採掘を続けた末に、得られたものがパイライトだけだったという人々の末路です。当時の新聞や日記には、パイライトを金だと信じ込んで町に持ち込み、鑑定師に「これは愚者の金だ」と告げられた瞬間に精神が崩壊した鉱夫の記録が残されています。家族を東部に残し、帰る金もなく、見つけた「金」が無価値だと知った絶望——その結果、自暴自棄になる者、酒に溺れる者、自ら命を絶つ者が続出しました。サンフランシスコのある鑑定師は日記に「今日もまたパイライトを金だと持ち込んだ男が泣き崩れた。私はこの仕事が嫌になった」と記しています。

1897年からのクロンダイク・ゴールドラッシュでも同様の悲劇が繰り返されました。極寒のユーコン準州で凍てつく川を掘り、見つけた金色の鉱物に歓喜しながら、それがパイライトだと判明したときの絶望は筆舌に尽くしがたいものだったでしょう。クロンダイクに向かった約10万人のうち、実際に金を見つけて富を得たのはわずか数百人。残りの大多数は破産か死に終わりました。「Fool's Gold」という言葉は、こうした悲劇の積み重ねの中で生まれ、定着した言葉なのです。パイライトはゴールドラッシュの狂気の中で、人間の欲望を映し出す残酷な鏡として機能し続けました。夢と狂気と絶望——パイライトは、人類の金に対する執着が生み出す最も暗い物語の証人なのです。

Incompatibilityパイライトが「合わない人」の特徴

パイライトは「人を選ぶ石」とされ、パワーストーンの世界では以下のような特徴を持つ人は相性に注意が必要と言われています。偽りの富と欺瞞のエネルギーを宿すこの石は、持ち主の弱点を増幅する危険があるとされます。「金運の石」としてパイライトを求める人こそが、実は最もパイライトに「合わない」可能性がある——という逆説が、この石の怖さの核心です。

タイプなぜ合わないのか起こりうる症状
物欲が強い人「偽りの富」のエネルギーが欲望をさらに増幅し、幻想の富を追わせる散財、判断力の低下、投資の失敗
見栄を張りがちな人「愚者の金」が虚栄心を刺激し、実力以上の自分を演じさせる虚言、信用の失墜、人間関係の破綻
嘘や欺瞞に敏感な人「欺瞞」のエネルギーが心理的な不安や猜疑心を増す他者への不信感、孤立、疑心暗鬼
自己評価が低い人「偽物」のイメージが自己否定をさらに強める自己嫌悪、無価値感、意欲の喪失
環境問題に強い関心がある人酸性鉱山排水の原因鉱物であることへの罪悪感ストレス、葛藤、精神的な重荷

もちろん、これらはパワーストーンやスピリチュアルの文脈での話であり、科学的根拠はありません。しかし、パイライトを身に着けて違和感や不安を覚えたら、無理に着け続けないというのは普遍的な知恵と言えるでしょう。また、パイライトは湿気で分解し硫酸を生じるため、肌に長時間直接触れさせることは鉱物学的にも推奨されません。汗や皮脂が付着すると酸化が促進され、石の表面が変色・劣化する原因にもなります。パイライトを楽しむ場合は、標本として飾るか、短時間のアクセサリー使用にとどめるのが無難です。

FAQよくある質問

「偽りの富」「愚者の金」「悪魔の火」「欺瞞」「破滅の輝き」です。金に似た見た目から多くの人を欺いてきた歴史があり、英語圏ではFool's Gold(愚者の金)の悪名で知られています。火打ち石としての性質から硫黄と結びつき、悪魔の石とも呼ばれてきました。金色に輝きながら金ではない——偽りと欲望の象徴です。

パイライトは金に似た金属光沢を持つため、金と見間違えた鉱夫や探検家が歴史上無数にいました。1578年のフロビッシャーの遠征では1,350トンものパイライトが金と間違えて持ち帰られ、カリフォルニアやクロンダイクのゴールドラッシュでも多くの人がパイライトに騙されました。欲に目が眩んだ愚か者を騙す金=Fool's Goldという呼び名が定着したのです。

鉱物学的には硫化鉄(FeS₂)で、湿気や酸素に触れると硫酸を生成し、酸性鉱山排水(AMD)の原因となります。これは世界中で深刻な環境問題を引き起こしている科学的事実です。コレクション標本として乾燥した環境で保管すれば安全ですが、湿気の多い場所での保管は分解・劣化の原因になります。肌に長時間直接触れさせることも避けた方が無難です。

パイライトは水に弱く、湿気で劣化・分解して硫酸を生じるため、流水での浄化は厳禁です。月光浴、セージの煙、水晶クラスターの上に置く方法が推奨されます。日光にも長時間当てすぎると変色する可能性があるため注意が必要です。保管時はシリカゲルなどの乾燥剤と一緒に密閉容器に入れるのが最適です。

物欲が強い人、見栄を張りがちな人、嘘や欺瞞に敏感な人、自己評価が低い人、環境問題に強い関心がある人が合わないとされています。偽りの富のエネルギーが欲望や虚栄を増幅し、欺瞞のエネルギーが猜疑心を強めると言われます。ただし、これらはスピリチュアルの文脈での話であり、科学的根拠はありません。

パイライトの怖い石言葉に興味を持った方は、以下の記事もぜひご覧ください。偽りの富を象徴するパイライトと、本物の富がもたらす呪いを背負うゴールド、同じ鉄鉱物でありながら血と闘争の歴史を持つヘマタイト——それぞれの石が異なる角度から「富と鉄の闇」を照らしています。